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第1回では、食べ方や口臭、よだれなど、家で気づける変化と、お口の病気の違いについてまとめました。

気になる症状があって病院へ行くと、次に出てくるのが、

「どんな治療をするんだろう」
「抜歯が必要と言われたらどうしよう」
「薬だけでは治せないの?」
「腎臓病があるけれど、麻酔をかけても大丈夫?」

という心配かもしれません。

お口の治療は、ひとつではありません。

歯肉炎なのか、歯周炎なのか、歯の吸収病変なのか。
慢性歯肉口内炎なのか。

病気によって、必要な治療は変わります。

今回は、病院での検査や治療の流れ、抜歯を考える理由、使われる薬、そしてシニア猫や腎臓病など持病がある子の治療について整理します。

まずは「どこが悪いのか」を調べる

お口の治療は、最初から薬を選ぶところから始まるわけではありません。

まず、どこに、どんな病変があるのかを確認します。

病院では、まず麻酔をかけていない状態で見える範囲のお口を診察し、食べ方の変化、使っている薬、持病などを確認します。

ただ、歯の根や歯ぐきの内側、歯を支える骨の状態までは、外から見るだけでは分かりません。

詳しい歯科検査では、全身麻酔をかけたうえで、歯を一本ずつ調べ、歯周ポケットの深さを測ったり、口腔内X線で歯根や歯槽骨を確認したりします。

見えている歯石の量と、歯の根元で起きている病気の重さが一致しないこともあります。

必要な場合は、その同じ麻酔の中で歯垢や歯石を取り除き、病気の歯を抜歯するなどの処置を行います。

治療後は、痛みを抑えながら回復を見守り、再診で食欲や痛み、炎症の状態を確認していきます。

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病気によって、治療はどう違う?

歯肉炎

歯肉炎は、炎症が歯ぐきにとどまり、歯を支える組織や骨がまだ壊れていない状態です。

主な治療は、麻酔下で歯垢や歯石、歯ぐきの内側にたまった歯垢や細菌のかたまりを取り除き、歯の表面をきれいにすることです。

痛みや炎症が落ち着いたあとには、歯磨きなど家庭での歯垢管理を続けます。

単純な歯垢関連の歯肉炎は、原因となる汚れを十分に取り除くことができれば、改善を目指せます。

歯周炎・歯周病

歯周炎では、炎症が歯ぐきだけでなく、歯を支えている組織や骨まで進んでいます。

初期なら、歯垢や歯石を取り除き、歯ぐきの内側を治療しながら、歯を残せる場合があります。

ただし、骨が大きく失われていたり、歯がぐらついていたり、痛みや感染の原因になっている歯では、抜歯が選ばれることがあります。

失われた歯周組織は、歯石を取っただけで元通りになるわけではありません。

治療の目的は、できるだけ歯を残すことだけではなく、痛みや感染を減らし、食べやすい状態を目指すことです。

歯の吸収病変

歯の吸収病変では、歯そのものが少しずつ壊れていきます。

なぜ起こるのか、原因はまだはっきり分かっていません。

分かっているのは、歯の組織を吸収する働きをもつ細胞が活性化し、歯の硬い組織が少しずつ失われていくことです。

年齢とともに増える傾向がありますが、「歯磨きができなかったから」「歯石がたまったから」と単純に説明できる病気ではありません。

見た目だけでは治療方法を決められないため、口腔内X線で歯根の状態を確認します。

痛みがある歯や、病変が口の中に露出している歯では、抜歯などの外科的な処置が勧められています。

病変のタイプによっては、条件を満たした場合に、歯冠だけを取り除く方法が選ばれることもあります。

現在、吸収病変そのものの進行を止める薬や、失われた歯を元に戻す治療、確立した予防法はありません。

慢性歯肉口内炎

慢性歯肉口内炎では、歯ぐきだけでなく、口の奥などにも強い炎症が続きます。

歯周病や歯の吸収病変、残った歯根などがないかを詳しく調べたうえで、十分な痛みの管理や栄養・水分のサポートを行います。

現在のガイドラインでは、全臼歯抜歯や全顎抜歯など、広い範囲の抜歯が治療の柱になっています。

慢性歯肉口内炎については、原因や診断、抜歯後も症状が残る難治例、新しい治療も含めて、この3回のあとに別の記事で詳しく取り上げる予定です。

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「抜歯」と言われたら

「歯を抜きましょう」と言われると、

「できれば残してあげたい」
「全部の歯がなくなるの?」
「本当に抜くしかないの?」

と思うかもしれません。

でも、「抜歯」といっても、すべて同じではありません。

病気になっている歯だけを抜くこともあれば、慢性歯肉口内炎では前臼歯・後臼歯をすべて抜くことがあります。

口全体に炎症が広がっている場合などには、切歯や犬歯も含めた全顎抜歯が検討されることもあります。

なぜ抜くのでしょうか

病気によって、抜歯の目的も違います。

歯周炎なら、感染や痛みの原因になっている歯を取り除くため。

歯の吸収病変なら、壊れて痛みを起こしている歯を取り除くため。

慢性歯肉口内炎では、歯に付着する歯垢や、歯周組織から続く刺激を大きく減らすために、広い範囲の抜歯が行われます。

「歯を残すこと」が、必ずしもその子にとって一番よいとは限りません。

痛い歯を残して食べることがつらい状態よりも、痛みの原因を取り除くことで、食事や毛づくろいが楽になることがあります。

全部の歯がなくなったら、食べられるのでしょうか

全顎抜歯と聞くと、「歯がなくなったら、もう食べられないのでは」と心配になると思います。

広い範囲の抜歯をした直後は、傷が治るまで食事の形を調整したり、十分な痛み止めや栄養のサポートが必要になったりすることがあります。

一方、傷が治ったあとには、歯がほとんど、あるいはすべてなくても食事ができる猫はいます。

UC Davisの獣医歯科部門では、歯がまったくない犬や猫でも、粒がその子に対して大きすぎなければ、ドライフードを含む通常の食事を食べることができると案内しています。

術後にどのくらいの硬さの食事から始めるか、いつ通常の食事に戻すかは、その子の傷の状態に合わせて主治医と相談します。

抜歯すれば、必ず治るのでしょうか

病気によります。

歯周炎や吸収病変では、痛みや感染の原因となる歯を適切に取り除くことが治療につながります。

一方、慢性歯肉口内炎では、抜歯によって大きく改善する猫が多いものの、すべての猫で炎症が完全になくなるわけではありません。

95頭を調べた2015年の研究でも、抜歯後に大きく改善した猫や症状がなくなった猫がいる一方、症状が残った猫も報告されています。

抜歯後も痛みや炎症が残り、薬による治療を続ける猫もいます。

だからこそ、

「どの歯を抜くのか」
「なぜ抜くのか」
「抜歯で何を目指しているのか」
「残した場合にはどんな問題が考えられるのか」

を、主治医に確認してみてください。

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お口の治療では、どんな薬が使われる?

病院で薬を処方されても、

「これは何のための薬?」
「ほかにも治療の選択肢はあるのかな」

と思うことがあります。

薬の名前を知らなければ、先生に質問することも難しいものです。

ここでは、猫のお口の治療で使われる主な薬を、何のために使うのかが分かるようにまとめます。

これは、飼い主さんが薬を自分で選ぶための表ではありません。

その子の病気や持病、体の状態によって、使える薬や適した薬は変わります。

今受けている治療の目的を理解したり、ほかに選択肢があるのか主治医に相談したりするときの参考として見てください。

「適応外使用」とは

表の中には「適応外」という言葉が出てきます。

これは、その薬が日本で承認されている病気や使い方とは異なる目的で使われることを指します。

猫の治療では、獣医師がその子の状態や、期待できる効果とリスクを考えたうえで、適応外の薬を選ぶことがあります。

「適応外」と書かれているからといって、その薬が使えないという意味ではありません。

気になる場合は、なぜその薬を使うのか、どんな効果や注意点があるのかを主治医に確認してみてください。

抗菌薬は、すべての猫に使うものではありません

歯周病には細菌が関わりますが、歯石や歯周ポケット、病気になった歯を残したまま、抗菌薬だけで治すことはできません。

通常の歯科処置や抜歯で、すべての猫に抗菌薬を使うことは、現在のガイドラインでは勧められていません。

感染が広がっている場合や、その子の状態から必要と判断された場合などに使われます。

薬・薬のグループ 何のために使う? 知っておきたいこと
アモキシシリン+クラブラン酸 細菌感染を抑える 明らかな感染がある場合などに使われます。猫の口腔疾患では適応外となる場合があります
クリンダマイシン 歯や歯周組織の細菌感染に使われることがある 抗菌薬を長く漫然と使うのではなく、感染の状態を見て使います
セフォベシン 長時間作用する注射の抗菌薬 飲み薬が難しい猫で使われることがあります。猫の口腔疾患への使用は適応外です
プレドニゾロンなどのステロイド 強い炎症や免疫反応を抑える 症状が楽になることはありますが、長期使用では副作用への注意が必要です
メロキシカム 痛みや炎症を抑える 腎臓の状態、脱水、血圧などを見ながら使用を判断します
ロベナコキシブ 急性・周術期の痛みや炎症を抑える 慢性歯肉口内炎への長期使用を前提とした薬ではありません
ブプレノルフィン 中等度〜強い痛みを抑える 抜歯後や強い口腔痛で使われることがあります
リドカイン/ブピバカイン 歯科処置中の局所麻酔 抜歯する場所の神経をブロックし、処置中や処置後の痛みを減らします
ガバペンチン/アマンタジン 慢性的な痛みを抑える補助 難治性の口腔痛で検討されることがあります。ガバペンチンは腎臓病で量や間隔の調整が必要になる場合があります
シクロスポリン 免疫反応を抑える 抜歯後も炎症が残る慢性歯肉口内炎などで検討されます。一般的な歯肉炎に順番に使う薬ではありません
組換え型ネコインターフェロンω 免疫調整・抗ウイルス作用を期待して使う場合がある 慢性歯肉口内炎では適応外使用で、効果は一定していません
インターベリーα 軽度の歯肉炎症状を軽減 日本で猫の軽度歯肉炎に承認されています。歯周炎や慢性歯肉口内炎の根本治療ではありません

それぞれの薬は、役割が違います。

薬で痛みや炎症、感染を抑えることは大切です。

ただし、病気になった歯や歯周組織を治療する必要がある場合、薬だけではその原因を取り除けないことがあります。

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シニア猫や腎臓病がある子では

「もう高齢だから、麻酔は無理でしょうか」

「腎臓病があるのに、歯科処置をして大丈夫なのでしょうか」

シニア猫では、ここが大きな迷いになると思います。

年齢や腎臓病だけで、すぐに「できる」「できない」を決めるものではありません。

高齢だから、麻酔ができないわけではありません

見るのは年齢だけではなく、その子の体力や筋肉量、脱水の有無、持病がどのくらい安定しているか、現在の食欲や体重、そして口の痛みが生活にどのくらい影響しているかです。

麻酔にはリスクがあります。

一方で、痛い口をそのままにしておくと、食べにくさや体重減少、飲水量の低下など、日々の生活や体調に影響が出ることがあります。

麻酔の前には、何を調べるのでしょうか

必要な検査は、その子によって違います。

調べること 主に確認すること
これまでの病気や薬 持病、過去の麻酔、現在使っている薬やサプリ
身体検査 体重、筋肉量、脱水、心臓や呼吸の状態など
血液検査 貧血、腎臓・肝臓の数値、血糖、電解質など
尿検査 尿を濃くする力、蛋白尿、感染など
血圧 高血圧や低血圧のリスク
心臓・呼吸の検査 必要に応じて心電図、胸部X線、心エコーなど
そのほかの検査 シニア猫では甲状腺など、その子の状態に合わせて追加

こうした検査は、「正常なら麻酔は絶対安全」という証明をするためではありません。

問題がないかを確認し、必要なら先に状態を整えたり、麻酔の方法や処置時間、術後の管理を調整したりするために行います。

腎臓病がある場合に見ること

上の検査のうち、腎臓病の子では特に、今その子が安定しているかを見ていきます。

確認することには、

  • 脱水していないか
  • 血圧は安定しているか
  • 貧血はないか
  • カリウムなどの電解質に異常がないか
  • 食欲や体重、筋肉量は保てているか
  • 心臓病を併発していないか
  • どんな薬を使っているか

などがあります。

腎臓病だから輸液を多くすればよい、というわけでもありません。心臓病を併発している場合などには、輸液量にも注意が必要です。

処置に長い時間がかかりそうな場合には、優先度の高い痛い歯を先に治療し、何回かに分ける方法を検討することもあります。

麻酔中は、血圧、酸素化、呼吸、心電図、体温などを監視し、保温や輸液、局所麻酔などを組み合わせます。

処置が終わったあとも、覚醒、体温、食欲、水分状態、痛みなどを確認します。

「歯科処置で腎臓が悪くなる」とは言い切れません

腎臓病のある子では、

「歯の治療をしたことで、腎臓が悪くなってしまうのでは」

と心配になることがあります。

2021年にPLOS ONEに発表されたHallらの研究では、歯周病のある猫31頭と犬31頭について、歯科処置の前後で腎臓に関する血液・尿の指標を調べています。

猫では、処置時間が長かった場合に、処置後のSDMAが高くなる例が多くみられました。また、犬猫を合わせた解析では、60分以上の処置と、腎臓の組織の傷害に関わる尿中の指標の上昇との関連がみられています。

ただし、これは腎臓病の猫だけを対象にした研究ではありません。

また、猫31頭・犬31頭という小規模な研究で、処置後の確認も1週間までです。

歯科処置そのものが、持続的な腎障害を起こすと証明した研究ではありません。

大切なのは、

「歯科処置は危険だからしない」

と考えることでも、

「腎臓病があっても問題ない」

と考えることでもありません。

脱水や低血圧を避け、処置が長くなりすぎないようにし、その子の状態に合わせた麻酔・治療計画を立てることです。

麻酔や歯科処置を、すぐには選べないとき

検査の結果や持病の状態、その子の体力などから、すぐに麻酔や歯科処置を行わないと判断することもあります。

その場合でも、何もできないわけではありません。

痛みを抑える治療や炎症の管理、必要な場合の感染への治療、食べやすい形への食事の調整、栄養や水分のサポートなどを行いながら、状態を見ていくことがあります。

まず持病や脱水などを整え、あとから歯科処置を検討できる場合もあります。

一方で、麻酔が難しく、内科的な治療で痛みや食事を支えていくことを選ぶ場合もあります。

ただし、薬で症状を和らげることと、病気になった歯や歯周組織そのものを治療することは同じではありません。

「いま何を優先するのか」
「この治療は一時的な支えなのか」
「状態が整えば、あとから歯科処置を考えられるのか」

ということも、主治医に確認しておくと治療の見通しを持ちやすくなります。

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「できるか、できないか」ではなく、その子にとってどうか

シニア猫のお口の治療は、

「高齢だからやめる」
「歯が悪いから全部抜く」

という一つの条件だけで決まるものではありません。

考える材料には、

  • 今、どのくらい痛いのか
  • 食べることにどのくらい影響しているか
  • 持病の病期と、現在の状態が安定しているか
  • 必要な歯科処置の範囲と、どのくらい時間がかかりそうか
  • 麻酔や歯科治療を行う病院の設備や監視体制
  • 痛みをどう抑えるか
  • 一度で行うか、何回かに分けるか
  • 治療によって食事や体重、生活の質がどのくらい改善できそうか
  • 家に帰ってから、投薬や食事、再診を続けられるか

といったことがあります。

「麻酔が怖い」という気持ちも、
「できるだけ痛みを取ってあげたい」という気持ちも、

どちらも治療を考えるうえで大切なことです。

分からないことがあれば、

「なぜこの治療が必要ですか」
「抜歯しない場合は、どうなりますか」
「この薬は何のためですか」
「ほかの薬や治療の選択肢はありますか」
「腎臓病がありますが、どんな点に注意して麻酔しますか」
「一度に全部ではなく、分けて治療する方法はありますか」
「今は麻酔をしない場合、痛みをどう支えますか」

と聞いてみてください。

治療について知ることは、飼い主さんが自分で薬や治療法を決めるためではありません。

その子に合う方法を、主治医と一緒に考えるための材料になります。

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次回は、お口のケア第3回。

歯磨きはいつから、どう始めるのか。
歯磨きが難しい子には何ができるのか。

サプリやフード、食べやすくする工夫も含めて、家でできることをまとめます。

この記事は一般的な情報をまとめたものです。診断や治療の選択は、その子の状態に合わせて主治医とご相談ください。

関連ページ

お口のケア 第1回:食べているけれど、お口は痛くない?

お口のケア 第3回:家では、何ができる?

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